はじめに:「自分の言葉」で症状を伝える子どもとの対話
「なんか、頭がガンガンする…」「気持ち悪くて、お腹も痛い…」
小学生になると、子どもは自分の体の不調を、具体的な言葉で伝えられるようになります。これは、親にとって非常に大きな助けです。しかし、その言葉をただ聞くだけで安心してしまうのは、少し早いかもしれません。
言葉にできるからこそ、その裏にある本当の重症度や、隠れたサインを見抜く必要があります。この年代の救急対応でパパに求められるのは、子どもの言葉に耳を傾け、的確な質問で情報を引き出す「問診能力」です。
この記事は、パパが家庭の頼れる「問診ドクター」となり、冷静な判断を下すためのマニュアルです。
小学生の体と症状の特徴:言葉の裏にあるサインを見抜く
小学生の体や症状の出方には、幼児期とは違う特徴があります。
特徴①:症状を具体的に説明できる
「お腹のこの辺がキリキリ痛い」「目が回る感じがする」など、痛みの場所や種類、感覚を伝えられるようになります。パパは、この情報を最大限に活用しましょう。
特徴②:感染症の種類が増える
学校という集団生活の中で、インフルエンザ、ウイルス性胃腸炎(ノロ、ロタなど)、溶連菌感染症など、特定の感染症にかかる機会が格段に増えます。「学校で流行っている病気」の情報は、非常に重要なヒントになります。
特徴③:心因性の不調も現れる
友達関係の悩み、勉強のプレッシャーといった精神的なストレスが、頭痛や腹痛、吐き気といった身体症状(心身症)として現れることも、この年代から増え始めます。
【症状別】夜間救急マニュアル
Case 1:発熱
Step 1: 観察&問診(チェックリスト)
子どもの言葉に耳を傾け、情報を引き出します。
- □ 「他に痛いところはない?」(頭痛、喉、耳、関節、お腹など)
- □ 「頭痛はどんな感じ?」(ズキズキ?ガンガン?締め付けられる感じ?)
- □ 「学校で何か流行っている病気はある?」
- □ 食欲はあるか? 水分は摂れているか?
Step 2: 対応(What to Do)
- 本人の希望を尊重する: 「冷たいタオル、おでこに置く?」「スポーツドリンクとゼリー、どっちがいい?」など、どうすれば少しでも楽になるか、本人に確認しながらケアを進めます。
- 適切な水分補給: 本人が好むなら、スポーツドリンクや経口補水液、ゼリー飲料などを活用し、脱水を防ぎます。
- 解熱剤を使う: 必ず子ども用の解熱剤を、年齢や体重に合った規定量で使いましょう。つらくて眠れない時や、水分が摂れない時に使用を検討します。
NG行動(What Not to Do)
- NG:「ただの風邪だ」と決めつけ、本人の訴えを軽視する。 →激しい頭痛や嘔吐を伴う場合、髄膜炎など重い病気の可能性もゼロではありません。
- NG:大人用の薬を、量を減らして飲ませる。 →成分が子どもに適していない場合があります。自己判断での使用は絶対にやめましょう。
Case 2:嘔吐
Step 1: 観察&問診(チェックリスト)
- □ 「今日、給食以外に何か変わったものを食べた?」
- □ 「周りに同じ症状の友達はいる?」(ウイルス性胃腸炎の可能性)
- □ 腹痛の場所と強さは?(特に、右下腹部の痛みが強まっていないか)
- □ 熱や下痢はあるか?
Step 2: 対応(What to Do)
- 冷静に、衛生的に処理する: 吐瀉物にはウイルスが含まれている可能性を常に考え、使い捨ての手袋とマスクを着用して処理します。次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤を薄めたもの)での消毒が最も効果的です。
- 記録を取る: 「何時に、何を、何回吐いたか」をスマホのメモ機能などに簡単に記録しておくと、翌日病院で説明する際に非常に役立ちます。
NG行動(What Not to Do)
- NG:吐いたこと自体を、感情的に叱る。 →「大丈夫か?」と、まずは不安な気持ちに寄り添うことが第一です。
- NG:強い腹痛があるのに、市販の痛み止めや下痢止めを飲ませる。 →虫垂炎(盲腸)などの場合、薬で症状が分かりにくくなり、診断が遅れる危険があります。
Case 3:けいれん
Step 1: 観察(チェックリスト)
この年齢でのけいれんは、幼児期の「熱性けいれん」よりも慎重な判断が必要です。
- □ 熱はあるか?(熱がない、または微熱でのけいれんは、より注意が必要です)
- □ 時間を計る!(何分続いたか)
- □ けいれん後、ひどい頭痛や体の麻痺、ろれつが回らない、といった症状はないか?
Step 2: 対応(What to Do)
- 安全確保と観察: 基本は幼児期と同じです。安全な場所に寝かせ、衣服をゆるめ、時間を計りながら静かに見守ります。
- けいれん後の問診: 意識がはっきり戻ったら、「けいれんする前に、何か変な感じはあった?」「光がチカチカ見えたりした?」など、本人から前兆がなかったか情報を引き出します。
NG行動(What Not to Do)
- NG:熱がないけいれんを、「疲れていただけだろう」と軽視する。 →てんかんや脳の病気の最初のサインである可能性も考えられます。けいれんが起きた場合は、翌日に必ず小児科を受診し、医師に相談しましょう。
パパの最終判断:連絡先の使い分け
【すぐに救急車(#119)】
- 激しい頭痛と嘔吐を繰り返す。(特に、首を前に曲げると痛がる場合)
- 熱がないのにけいれんした。
- 呼びかけへの反応が極端に鈍い、意識が朦朧としている。
- 呼吸が速く、肩で息をするなど、明らかに苦しそう。
【迷ったら専門家に相談(#8000)】
- こども医療でんわ相談。小学生でももちろん利用できます。「インフルエンザの症状に似ているが、夜間救急に行くべきか?」など、受診のタイミングに迷った時に。
【朝まで様子を見る】
- 症状はあるものの、**会話がはっきりとでき、**水分も摂れていて、比較的落ち着いている場合。
まとめ:パパは家庭の「問診ドクター」。対話が家族を救う
小学生の救急対応では、パパが 子どもの言葉に真摯に耳を傾け、的確な質問で情報を引き出し、客観的な観察と合わせて冷静に判断する。
その丁寧な対話のプロセスが、子どもの不安を和らげ、パパへの絶対的な信頼を育むのです。いざという時のあなたの対話力が、家族を救います。
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