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パパの5月病、実は「脳の防衛反応」

ゴールデンウィークという長い休みが明け、ようやく日常の歯車が回り始めたはずなのに、なぜか体が鉛のように重い。朝、目が覚めても布団から起き上がるのが辛く、仕事に向かおうとすると、ふとした瞬間に涙がこぼれそうになったり、猛烈な虚無感に襲われたりすることはありませんか。

4月からの新生活、あるいは育休明けの職場復帰。パパたちはこの1ヶ月間、慣れない環境の中で必死に家族と向き合い、仕事との両立を模索してきました。大型連休中も、家族サービスや帰省などで休む間もなく動き回っていた方が多いはずです。世の中が日常に戻りつつある今、あなたが感じているその理由のない不安や落ち込みは、決してパパとしての資質が足りないからではありません。

実はその心の叫びは、あなたの脳が限界を察知して、これ以上心身が壊れないように強力なブレーキをかけている「防衛反応」そのものなのです。今回は、頑張りすぎてしまったパパたちが陥りやすい5月のメンタル不調の正体と、そこから抜け出すための具体的な回復術について、じっくりと一緒に紐解いていきましょう。

目次

なぜ今、猛烈にきついのか?「適応症候群」の正体

今のあなたが抱えている、言いようのない重苦しさを説明するのに最適な言葉があります。それは、ストレス学説の権威であるハンス・セリエが唱えた「適応症候群」という考え方です。

私たちの体は、外部からの強いストレスを受けると、それに対抗しようとして体内にある全エネルギーを総動員します。4月の新生活が始まったばかりの時期は、いわゆる「抵抗期」と呼ばれます。心身ともに張り詰めた状態ではありますが、交感神経が優位になり、アドレナリンが大量に分泌されることで、自分でも驚くほどの無理が効いてしまう時期です。

しかし、その無理は決して永遠には続きません。ゴールデンウィークという一時的な休息を挟むことで、それまで無理やり張り詰めていた緊張の糸が、ふとした瞬間に緩んでしまいます。すると、それまで必死に抑え込んできた蓄積疲労が一気に噴出し、脳のエネルギーが完全に枯渇する「疲憊(ひはい)期」へと突入してしまうのです。

特に、責任感の強いパパほどこの落差は激しくなります。「自分がしっかりしなければ家族が路頭に迷う」「職場でも期待に応え、存在感を示さなければならない」と自分を追い込んできた結果、脳のバッテリーが完全に空の状態になってしまったのが、今のあなたの正体です。この時期に感じる虚無感は、脳が「これ以上動くと本当に危ないよ」と、あなたに命がけの休息を促している大切なサインに他なりません。

根性論は逆効果。脳の「ホメオスタシス」がブレーキをかけている

やる気が出ない自分に対して、「これくらいで弱音を吐いてどうするんだ」「もっと気合を入れ直さなきゃ」と自分を鞭打っていませんか。実はその行為こそが、今の苦しみをさらに深刻化させ、長引かせる最大の原因になっているかもしれません。

私たちの体には、ホメオスタシス(恒常性)という、周囲の環境がどう変わろうとも今の状態を一定に保とうとする優れた維持機能が備わっています。4月からの急激な生活環境の変化は、脳にとって想像以上に大きなストレスとして認識されました。平穏だった日常が壊されたと判断した脳は、元の安定した状態に引き戻そうとして、あなたの心と体に強制的なブレーキをかけているのです。

これを車に例えるなら、エンジンがオーバーヒートしかけて白い煙を上げているのに、必死にアクセルをベタ踏みして加速しようとしているような非常に危険な状態です。ここでさらに自分を追い込めば、心という精密な機械は修復不可能なほどに焼き切れてしまいます。

今、あなたが仕事に向かえない、あるいは何に対しても意欲が湧かないのは、決してあなたの人間性が怠惰だからではありません。あなたの脳が、持ち主であるあなたを救うために、あえてシャットダウンという苦肉の策を選んでくれているのです。まずは、この脳の懸命な働きを否定せず、「今までよく耐えて頑張ったね」と自分自身に優しく声をかけてあげることが、回復への何よりの近道となります。

家族を愛しているのに孤独……オキシトシンの意外な副作用

もう一つ、家族思いで頑張るパパたちが陥りやすい、非常に皮肉で切ない心の罠があります。それは、一般的に幸せホルモンや愛情ホルモンとして知られるオキシトシンが関係しています。

育休明けや新生活の中で、育児や家事に主体的に関わろうとするパパほど、脳内では多くのオキシトシンが分泌されます。本来これは、家族との深い絆を育み、温かな幸福感をもたらしてくれる素晴らしい物質です。しかし、近年の精神医学の研究によって、オキシトシンには「他者の反応に対して過剰に敏感になりすぎる」という、あまり知られていない側面があることが分かってきました。

これを専門用語で「社会的拒絶感受性」の高まりと呼びます。家族のためにと自分を削って尽くしている分、パートナーからのちょっとした冷たい一言や、子供の理由のない泣き声といった、普段なら流せるはずの些細な刺激に対して、必要以上に激しく傷つきやすくなってしまうのです。

「自分だけがこんなに必死で苦労しているのに、誰も認めてくれない」 「この家の中に、自分の本当の居場所なんてないのではないか」

そんな猛烈な孤独感や虚無感に襲われるのは、あなたが家族を深く愛し、誰よりも一生懸命に繋がろうとしている証拠でもあります。けっしてあなたが冷淡な人間になったわけではありません。このホルモンによるメカニズムを知っておくだけでも、パートナーへの衝動的な苛立ちや、自分に対する激しい自己嫌悪を、少しだけ和らげることができるはずです。

家庭崩壊を防ぐ「セルフコンパッション」の実践術

この苦しい時期を乗り越え、結果として家族の笑顔を長く守り続けるために今必要なのは、気合を入れ直すことではありません。自分自身を救う「セルフコンパッション」という心の技術を取り入れることです。これは、自分自身の苦しみや失敗を、まるで大切な親友や愛する我が子のことであるかのように、慈しみ、思いやる姿勢のことです。

具体的な実践として、まずは自分を否定する内なる声を止めてみることから始めましょう。「パパなのに情けない」「これしきの事で」という否定的な言葉が浮かんだら、それを即座に「今は脳が一生懸命に自分を守ろうとしてくれているんだね、お疲れ様」という労いの言葉に変換する練習をしてみてください。

また、1日の生活の中で、ほんの数分だけで構いませんから、「パパとしての自分」を戦略的にお休みする時間を意識的に作ってみてください。一人で静かに温かい飲み物を味わう、お気に入りの音楽に没頭する、あるいは公園のベンチでただ空を眺める。そんな些細なことで十分です。

パパが自分を犠牲にしすぎて完全に倒れてしまうことこそが、家庭にとっての最大の悲劇です。あなたが自分自身を慈しみ、心のコップに少しずつエネルギーを溜め直して初めて、家族に対しても本当の意味での優しさと余裕を分け与えることができるようになります。

まとめ

5月病のような心の不調は、あなたがこれまで家族と仕事のために、全力で走り続けてきた何よりの勲章です。ふと涙が出たり、体が思うように動かなくなったりするのは、あなたの心が正しく機能しており、致命的なダメージからあなたを守り抜こうとしている健康な反応なのです。

育児や家庭生活という長い道のりは、一瞬の速さを競う短距離走ではなく、何十年も続くフルマラソンです。完走するためには、時には足を止めて景色を眺め、給水ポイントでゆっくりと喉を潤し、体を休めることが不可欠です。

今、あなたが勇気を持って休むことは、決して義務からの逃げではありません。また次の季節を、家族と一緒に笑って過ごすための、パパとしての非常に大切で立派な仕事なのです。どうか、今日まで頑張り続けてきた自分を、まずはあなたが一番に褒めてあげてくださいね。

出典:内閣府「共働き・共育て」の推進に関する検討会資料 出典:精神科医・高橋和巳『心の処方箋』

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