「部屋、片付けろって言っただろ!」 「またスマホばっかり見て…。勉強はどうしたんだ!」
そう声を荒らげた瞬間、返ってくるのは無言の抵抗か、「…うざい」という一言。そして、バタンと閉められるドア。残されるのは、怒りと、どうしようもない虚しさ…。
小学生の頃とは明らかに違う、近寄りがたい雰囲気をまとう我が子。 父親として、間違った道に進まないように正してやりたい。でも、何を言っても響かない。それどころか、関係が悪化するばかり。一体、どうすればいいんだ…?
大丈夫です。その悩みは、思春期の子を持つすべての父親が通る道です。
この記事では、中学生という多感な時期の子どもに対し、「褒める」「叱る」という古いOSをアップデートし、子どもの自己肯定感を守りながら、父親の想いをしっかりと届けるための、新しいコミュニケーション術を解説します。
なぜ、中学生に「昔ながらの褒め方・叱り方」は通用しないのか?
まず、なぜ小学生の頃に有効だった言葉が、全く響かなくなるのか。その理由を理解することが、すべての始まりです。
①「上から目線」に猛反発する”自我”の芽生え
中学生は、心も体も大人へと急成長する中で、「子ども扱いされたくない」「一人の人間として認められたい」という強烈な自我が芽生えます。そのため、親からの「評価(ジャッジ)」や「命令」に対し、たとえそれが正論であっても、生理的な反発を覚えてしまうのです。
② 親の”評価”よりも、仲間の”共感”が世界の中心になる
彼らにとって最も重要なのは、親に褒められることよりも、友人関係という小さな社会の中で「認められること」「共感してもらえること」です。親の価値観が絶対だった世界は終わり、彼らは自分たちのルールで動き始めています。
黄金比率の正体:それは「9回の承認」と「1回のI(アイ)メッセージ」
では、どうすればいいのか。中学生に対する黄金比率とは、褒めると叱るの回数のことではありません。それは、コミュニケーションの”質”の比率です。
「褒める」から「承認する(認める)」へ
子ども扱いされたくない彼らにとって、単純な「偉いね!」「すごいね!」という言葉は、時に屈辱的に聞こえることさえあります。パパがすべきなのは、評価を伴わない、事実をそのまま認める「承認」です。
- NGな褒め方(評価): 「テストで90点なんて、偉いじゃないか!」 (→「じゃあ、70点だったら偉くないのか?」と、評価されることに敏感になる)
- OKな承認(事実を伝える): 「夜遅くまでテスト勉強、集中してたもんな。あの頑張りが、この結果に繋がったんだな」 (→点数だけでなく、努力のプロセスを具体的に認めることで、子どもの自尊心を満たす)「承認」とは、彼らが彼らなりに考え、悩み、努力している”過程”や”存在そのもの”を、一人の人間としてリスペクトし、言葉にすることなのです。
「叱る」から「I(アイ)メッセージで伝える」へ
中学生に最も響かないのが、「YOUメッセージ(お前は〜だ)」で始まる非難です。これを、パパ自身の気持ちを主語にする「Iメッセージ(私は〜だ)」に変えるだけで、子どもは聞く耳を持つようになります。
- NGな叱り方(YOUメッセージ): 「お前は、なんでいつも部屋を片付けないんだ!」 (→人格を攻撃されたと感じ、心を閉ざす)
- OKな伝え方(Iメッセージ): 「部屋が散らかっていると、パパは掃除機がかけられなくて困るんだ。どうすれば解決できるか、一緒に考えないか?」 (→「私」がどう感じ、どう困っているかを伝えることで、相手は非難されたと感じず、問題解決の話し合いに応じやすくなる)
【実践編】中学生のパパのための言葉術
具体的なシチュエーションで、どう言葉をかければいいのかを見ていきましょう。
Case 1:テストの点数が悪かった時
- NG対応: 「だから言っただろ、ゲームばっかりやってるからだ!」 「この点数じゃ、行ける高校ないぞ!」
- 神対応:
- まず、共感する: 「そっか…。一番悔しいのは、本人だよな」と、結果に対する子どもの気持ちに寄り添う。
- 事実を確認する: 「答案、見せてくれるか?どの問題で、どう間違えたのか、パパも一緒に見てみたいな」と、冷静に敗因分析を促す。
- 未来志向の質問をする: 「次のテストで、この悔しさを晴らすために、パパに何か手伝わせてくれることはあるか?」と、サポートの姿勢を見せる。
Case 2:門限を破ったり、嘘をついたりした時
- NG対応: 「何時だと思ってるんだ!」「親に嘘をつくなんて、最低だぞ!」
- 神対応:
- Iメッセージで、自分の気持ちを伝える: 「連絡がなくて、何か事件に巻き込まれたんじゃないかと、パパは気が気じゃなかった。生きてて良かった」と、怒りではなく”心配”を伝える。
- 言い分を聞く: 「頭ごなしに怒るつもりはない。何があったのか、理由を教えてくれるか?」と、対話のテーブルにつかせる。
- ルールと結果を淡々と伝える: 「でも、決めたルールはルールだ。残念だけど、来週のスマホの使用時間は半分にする」と、感情的にならず、事前に決めたルールに則って、行動の結果を本人に引き受けさせる。
Case 3:なかなか褒めるポイントが見つからない時
反抗期真っ只中で、褒めるような行動が何一つ見当たらない…。そんな時こそ、「承認」の出番です。
- 承認の言葉かけ例:
- 「毎朝、文句も言わずにちゃんと起きて学校に行くだけでも、実はすごいことだよな。ありがとう」
- 「最近、体つきが変わってきたな。部活、頑張ってる証拠だな」
- 「お前が聴いてるその音楽、パパもちょっと興味出てきたな。今度おすすめ教えてくれよ」
まとめ:父親は「評価者」から「対等な対話者」へ
思春期の子育てにおける「褒めると叱る」の黄金比率。それは、回数の問題ではありません。 子どもを上から評価し、コントロールしようとする「評価者」の仮面を脱ぎ捨て、一人の未熟な人間として尊重し、共に悩み、考える「対等な対話者」になること。
その姿勢こそが、厚い氷のように固まった子どもの心を、少しずつ溶かしていきます。 そして、いつか彼らが本当に人生に迷った時、「あの人になら話せるかもしれない」と、あなたの顔を思い浮かべてくれる。それこそが、思春期の子を持つ父親にとって、最高のゴールなのかもしれません。
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